不本意な結婚をさせてしまったのに、夫が優しすぎて戸惑っています

不本意な結婚をさせてしまったのに、夫が優しすぎて戸惑っています

  • 発売日2025.02.28
  • 価格¥880(税込)

※価格や発売日はストアによって異なります。

私が隣にいる限り、誰にも君を傷つけさせない。

貴族の血を引く令嬢であるにもかかわらず、家の事情で国境の砦を守る隊に所属していたルイーズ。男だけの隊の中、弟の名を騙り男装をして衛生兵の役目を務めていた。だがある日、大隊長のドノヴァンが竜との戦いでルイーズを庇って負傷し、『竜毒症』になってしまう。獣のように暴れ、最後には命を落とすと言われるこの病を鎮めるには『異性を与える』しかない。敬愛する彼のため己の身を差し出したルイーズは、抱き潰された翌朝、正気に戻り事情を知った彼から「責任をとる」と言われて求婚される。けれどこれは彼にとって望まぬ結婚。断ろうとするルイーズだが、結局押し切られ、思いがけず好待遇すぎる新婚生活が始まって……!?

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人物紹介

ルイーズ

弟が兵役を嫌がったため自分が行くことに。長身でスレンダーな体つきを継母に揶揄されてきたためコンプレックスに感じている。自分の働きを認めてくれて、隊に居場所を作ってくれたドノヴァンに心から感謝している。

ドノヴァン

国境の砦を守る隊の大隊長。王の甥でもあるため女性からの人気が高いが、様々な方法で迫られても一切なびかないため女性嫌いと言われている。責任感が高く仲間想いで剣も強い。男性からも憧れの男として慕われる。

試し読み

「ドノヴァン様。おかえりなさいませ」
「大変な一日だったと聞いた。ご苦労だったな」
 そう言いながら、彼はルイーズの隣に腰を下ろした。
「いいえ、だいじょう――」
「大丈夫という顔ではないな」
 強がって「大丈夫」と言おうとしたが、すぐに遮られた。
「私の元にも予定伺いの手紙が大量に届いている。このままでは、明日以降もこんな日々が続きそうだ」
「そう……ですか」
 眩暈がした。
「毎日こんな状態では君も気が休まらないだろうし、領地の屋敷に引っ込もうかと思ったんだが……」
 そう言って彼は大きなため息をついた。
「ドノヴァン様……?」
「旧友からも手紙が来ていた。『重病だという噂を耳にしたが本当か』という内容だった」
 ルイーズはハッと息を呑んだ。
「なんと……」
「急な結婚も相まって重病説が広まってしまっているらしい。訪問客の中にはその真偽を確かめたいものもいるのだろう。このままだと、竜との対決と結び付ける人が出るのも時間の問題だ。そこで、ひとつ招待を受けようかと思う。個別に対応するより、まとめて一度で済ませてしまった方がよいだろう。君のお披露目も兼ねて。問題ないか?」
「はい」
 そう答えはしたものの、ずん、と胃のあたりが重くなった。
「ルーベン伯爵家からの招待がよいかと思っているのだが、伯爵と面識は?」
「ありません」
「そうか。父の旧友で、ご当主も夫人もともに好人物だ。出席で返事をしても構わないかな?」
「はい、もちろんです」
「必要なものの手配はマリアに指示しておく」
「承知しました」
 話はこれで終わりかと思ったが、彼が立ち去る気配はない。隣に座ったままルイーズを見つめてくる。
「浮かない顔をしているな。正直言って私はこうした社交行事があまり好きではないのだが、君もか?」
「好きでないというよりも……慣れていないもので。この歳まで社交界への正式なデビューをせぬままでしたので、ふさわしい振る舞いができるかどうかもわかりません」
「なぜデビューしないままに?」
 一瞬の逡巡ののち、ルイーズは正直に答えることにした。
「お恥ずかしい話ですが、費用の問題で」
 実家を辞めた使用人が何人も公爵家で雇われているのだ。財政状況がよくないことなど、当然知られているだろう。
「カゼリ男爵ならば、姪の社交デビューの費用は用立ててくれそうなものだが」
 ルークの父である男爵の評判を下げるわけにはいかないから、ルイーズは慌てて「もちろんです。伯父はきちんと用意を」と答えた。
「ではなぜ……もしや、父君の賭博好きと関係が?」
 思わず大きく息を吸ってしまい、鼻がスンと音を立てた。彼と目が合う。誤魔化しても無駄だろう。
「……父は『増やそうと思った』と言っていましたが」
「なんという……」
 信じられない、という表情で彼が言った。
「その美貌でなぜ今まで結婚していないのか不思議に思っていた。君の母君の振る舞いを見れば有利な結婚を望んでいることは明らかだし、君の美しさで社交界に出ていればいくらでも求婚されたろう。まさか資金難でデビューが叶わなかったとはな」
 ルイーズは彼の言葉に面食らった。
「あの……もしかしてドノヴァン様はその……目がお悪くていらっしゃるのです?」
「何の話だ」
「美貌、とおっしゃいました?」
「そうだが」
「もしも私を励まそうと思っておられるのなら――」
「私が誰かを励ますために思ってもいないことを口にするような人間でないのは君もよく知っているはずだ。それに、視力にも問題はない。どちらかと言えば目は利く方だと思うが。なぜそんな疑いを抱かれているのかわからない」
「私は背が高すぎますし、女性らしい体つきでもありませんし、唇が薄く、鼻が少し上を向いていて、そばかすも……」
 ルイーズの言葉を遮るようにトントン、と固い音がした。見ると、彼が指先でソファのひじ掛けを叩いていた。苛立っているらしい。
 腕を組み、唸るような声を上げる。
「たしか砦でも同じようなことを言っていたな。なぜ自分を貶めるようなことを? 誰かにそう言われたことがあるのか?」
 ルイーズは口をつぐんだ。
「誰が言った? 賭博好きの父君か」
 答えるまで逃がさない、と青い目が伝えてくる。
「……父は私の背が標準より高いことにも気づいていないと思います」
「では母君が?」
「……」
 押し黙っているのを肯定ととったらしい彼が低く唸り声を上げて腕を組み、ソファに体を沈めた。
「どうやら君の母君とは気が合わないようだ」
 そう言ってルイーズを見据える。鋭い視線だが、威圧的なそれとは違い、訴えかけるような目だった。
「私はこれでも公正な目を持っていると自負している。私を信じろ」

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