愛が貴方を殺さぬように~侯爵は妻の愛を乞う~

愛が貴方を殺さぬように~侯爵は妻の愛を乞う~

  • 発売日2026.02.27
  • 価格¥880(税込)

※価格や発売日はストアによって異なります。

嘘でもいい。言ってくれ、愛していると。

ある事情を抱え、初夜の翌朝、何も告げずに夫ツェザールのもとを去ったエルゼ。一年後、再び侯爵邸に戻った彼女をツェザールは冷たく迎え入れる。彼は「妻としての義務を果たせ」と告げ、執拗にエルゼの身体を求めながら、逃げた理由を問いただし、愛の言葉を求めるが……。エルゼにはどうしても真実を告げられない理由があった。結婚前、瀕死の彼を救うため、悪魔と契約を交わしていたのだ。その代償は、彼に「愛している」と告げれば、彼が死んでしまうというもの。愛を乞う侯爵と、愛を口にできない妻。愛の言葉はなくとも、かつての想いをなぞるように二人の距離は縮まっていく。しかしその矢先、エルゼに命の危機が訪れて――。

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人物紹介

エルゼ

エルゼの家に生まれる女性は悪魔の祝福を受けているとされ、エルゼもその曰くを背負っている。父の率いる軍人たちの「手に入らない賞品」の役割を担わされていたが、ツェザールに恋をしてしまい……。

ツェザール

元々侯爵家の分家の人間で、エルゼの家に軍人として仕えていた。エルゼと結婚するため功績をあげようと努めるも、英雄として名を上げすぎたことで、エルゼの父に疎まれることに…。

試し読み

「侯爵様から、この度の戦いで敵国の将軍の首を取れたらエルゼとの結婚を検討してもいいと言われました。だから俺は全力で敵将を狙っていく」
 告げられた言葉に目を見開き、エルゼの頭は真っ白になる。
 そしてようやく言葉の意味を咀嚼できたときに、ボロリと涙が零れた。
「だからそういうことは望んでいないと言っているじゃない!」
 敵将の首を狙うなんて危険なことはしてほしくない。
 エルゼと結婚するために自分の命を賭けるような真似をしてほしくないのだ。
 そう伝えているのにどうして分かってくれないのか。
 どうして自分を大事にしてくれないのか。
 愕然とする。
「父は貴方を使うだけ使って約束なんて果たすつもりはないわ。あくまで『検討』よ。検討した結果、やはり結婚させられないと平気でいう人よ」
 名誉のためにそこまで非道になれる人だ。
 そんな人の欲望の糧にならないでほしいと縋る。
「それでも何度だって挑みます。何度も何度も、認められるまで」
 もう覚悟を決めているのだろう。
 何があっても諦めず、父に食らいつくのだと。
「これしかないんです。俺はこれしか持っていない。戦うことでしか、貴女を手に入れることができない男なんです」
 きっとエルゼが止めても、ツェザールが考え直すことはない。
 エルゼもまた父に抗うすべを持っておらず、ただ「こんなことはやめて」と叫ぶだけ。
 ツェザールは歩みを止めずに前に進んでいくのに、エルゼは数年前から同じ位置から動けずにいる。
「だから、お願いです。やめてとは言わないでください。俺がやれるところまでやらせてください。俺が勝手にそうしたいと願っているだけなのだから」
 そう言われてしまえば、エルゼに引き留める言葉はない。
 ただただ、無茶はしないでと言って送り出すことしかできなかった。
「呆れてくれていい、怒ってくれても構いません。ですが、出立する前に聞かせてください。貴女の気持ちを。俺を愛しているかどうなのか。勝手な勘違いで突っ走っているのではないと、知ってから発ちたい」
 手を差し出され、そっと握り締められて、この想いは一方通行ではないはずだと確かめるように見つめられる。
 もしかすると、この戦でツェザールは命を落とすかもしれない。
 戦地が地の利がある自国ならばまだしも、不利な敵国へと攻め込むのだ。何か不測の事態が起こってもおかしくはない。
 いつも安全を願って送り出すが、それでも戦争に絶対はない。
 ここで偽りの言葉を彼に残し、このまま永久に会えなくなったら、きっとその嘘を一生後悔するだろう。
 そう思ったら迷いが頭の中からスッと抜けていった。
「想いは同じよ、ツェザール。勘違いなんかではないわ。だから、貴方が苦しい思いをするのを見ていられない。止めたかったのよ」
 愛はここにある。
 ずっと秘め続けた想いは、ずっと胸の中に息づいてツェザールの幸せを願っていた。
 エルゼの言葉を聞いた彼はホッとしたように眉尻を下げ、感極まったような顔をして抱き締めてきた。
 抱きすくめられた身体が痛みを感じてしまうほどの強さで、彼はエルゼの身体もそして心も包んでくれている。
(……あぁ……なんて幸せな)
 ここまで喜びを覚えたことがあっただろうか。
 胸がじわじわと温かくなってそれが全身に広がって、このまま己のすべてをツェザールに委ねてしまいたいと思ってしまう。
 彼のぬくもりも香りも鼓動もずっと感じていたくて、エルゼもつい彼の背中に手を回してしまう。
 すると、ツェザールはエルゼの肩口に顔を埋めて、頬擦りしてきた。
「いつもの言葉、言っていただけませんか」
 それが戦う力になっている。
 いつだったかツェザールが話してくれた。
「必ず、私のもとに帰ってきて」
 エルゼの言葉ひとつで彼が無事でいてくれるならいくらでもあげよう。
 ツェザールが生きてくれている。
 それが、エルゼが唯一願い続けていることなのだから。

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