
醜いと捨てられた王女は、呪われた王弟に溺愛される
- 発売日2026.03.27
- 価格¥891(税込)
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私を見捨てないでくれ。愛しているんだ。
顔や身体に鱗のような痣を持って生まれた王女ニーナは、『蛇姫』と疎まれ、家族からも虐げられてきた。やがて他国の王との結婚を命じられるも、見世物同然に扱われた末、『呪われた王弟』アルベルトへと下賜される。全身が爛れて治療法もなく、あとは死を待つのみだという彼。しかしそれが呪いではなく毒によるものだと見抜いたニーナは治療を申し出る。頑なに人を拒む彼に寄り添い続けるうち、二人の距離は少しずつ縮まり、やがてアルベルトはニーナに心を許すようになっていく。だが、治療によって本来の美しさを取り戻していく彼を前に、ニーナは醜い自分とは住む世界が違うと感じ、距離を取るようになり……。そんな時、アルベルトの元婚約者が現れて――!?
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人物紹介

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ニーナ
王女でありながら『蛇姫』と疎まれ、森の小屋で孤独に生きてきた。唯一の拠り所は、自分にしか見えない白蛇テテル。アルベルトの苦しみに寄り添い、彼を救おうとする中で、初めて人の温もりと愛を知っていく。

-
アルベルト
全身が爛れ、悪臭を放つ『呪われた王弟』。かつては国を救った英雄だったが、今は『化け物』と呼ばれ、人を遠ざけ、城に籠る日々。だが、自分を恐れず寄り添うニーナに次第に心を開き、やがて彼女への想いを募らせていく。
試し読み
アルベルトの手には、まだニーナの手の感触が残っていた。
(ためらいなく掴むのだな)
この身が爛れてから、誰もアルベルトに近づかなくなった。それまで、花に群がる蝶のように寄ってきていた貴族たちが瞬時に飛び去っていくかのような呆気なさだった。向けられていた憧憬や親愛に満ちた視線は、恐怖と嘲り、そして侮蔑に変わった。
彼らは、異臭を放つアルベルトをまるで汚物を見るような目で蔑んだ。
(あぁ、恨めしい)
三年前、ドリカ国との国境で勃発した戦争にて受けた呪いは、アルベルトの人生を一変させた。戦いには勝ったが、仲間が徐々に朽ちて死んでいくのを、ただ指を咥えて見ているしかない歯がゆさと悔しさは、アルベルトに無力さを味わわせた。
自分だけが呪われればよかったのに。
何度、そう思ったかしれない。
英雄としての名声などいらない。仲間が呪いから解放されるなら、なんだってしたのに。
けれど、無情な神は、アルベルトの願いを叶えてはくれなかった。
(そう言えば、顔をしかめなかったな)
この部屋で初めて対面したとき、ニーナは食い入るようにこちらを見つめていた。この姿だ。人だと気づかなかったのかもしれない。だが、アルベルトが身じろぎをした途端、彼女は恐ろしいものを見たかのように息を呑んだ。「またこの顔か」と落胆が広がった。
見慣れた反応なのに、腹立たしかった。
それは、彼女もまた自分と同じ立場にいるからだろう。彼女との会話から、セルノフ国でどういう扱いを受けていたかは容易に想像できた。所詮は同じ穴の狢のくせに、アルベルトを見下すのかとすら思った。
冷静さを保とうとしているそばから、ニーナはアルベルトの神経を逆なでしていった。
呪いを否定し、毒だなどとのたまったのだ。
薬師としての経験は浅いが、知識はある。間違いないとまで言ってのけた。
そんな短絡的な自信を受け止めるだけの余裕は、アルベルトにはなかった。
そのあと、自分はなんと言っただろう。
(ひどいことを言っていなければいいが)
激高すると、自分がなにを口走ったかもわからないほど、自制が利かなくなった。
不安が膨らむほど、体温が上がっていくのを感じ、皮膚が熱を帯び、それが膿んだ箇所を刺激する。我慢しなければと思うほど、意識がそこに集中し、掻きむしってしまうことで膿袋が弾けてしまう。この悪循環は最悪だった。
感情を制御できないことが情けなくて腹立たしくて、自己嫌悪であったはずの苛立ちが八つ当たりにすげ替えられてしまうと、今すぐにでも喚き散らしてしまいたい衝動に襲われて、それを抑えるために、また身体を掻く。
(熱い……)
身体の中を蛆が這い回っているみたいだ。
苦しいのに、自分ではどうすることもできない。誰も救ってはくれない。
初めにこの状態を呪いだと言ったのは、ルードルフだったような気もするが、もう覚えていない。あまりにも大勢の人たちから言われ続けてきたから、元々誰の言葉だったかわからなくなっていた。
じっとしていると余計に痒みが気になってくる。杖をついてよろよろと立ち上がろうとしたはいいが、体重のかけ方がまずかったのか、そのままよろけて床に倒れ込んだ。
「あぁぁ――っ、くそ!!」
抑えきれなくなった激情ごと杖を壁に投げつけた。
なんと無様なのだ。
「ライマー! なにをしているっ。早く薬を持ってくるんだ!」
所望するのは、気持ちを鎮めるための劇薬だ。
(あぁ、いっそ死んでしまいたい)
どんどん自分が消えていってしまうのを感じる。
見た目だけでなく、中身さえ呪われていく。
いっそ、自我も壊れてしまえばいいのに。
そうすれば、こんな恐怖を味わわずにすむ。
なぜ呪われてしまったのか。
そんなことを、飽きるほど考えた。
けれど、どれだけ思考を巡らせたところで、答えにたどり着くことはないと知っている。自分は英雄と言われていたが、していることは殺し合いだった。国を護るため、民を守るためという大義名分を隠れ蓑にしようとも、恨みを買うには十分な行為を繰り返してきたのだ。
(まだ足りないか?)
呪いを受けて早三年。いや、まだ三年と言うべきだろうか。
すべてを失い、苦痛にもがき苦しみながら地べたを這いずり回る姿を、死んだ仲間はどこかで見ているのだろうか。
こんな身体、今すぐ捨ててしまいたい。
誰からも疎まれ、満足に歩けもしない身体など、早く朽ちてしまえばいい。
「アルベルト様……っ、大丈夫ですか!?」
扉が開く音がして、ライマーが駆け寄ってきた。
「躓かれたのですね。私の肩に掴まってください」
「早く薬を! 私に触れるな!」
近づいて来たライマーの体温すら煩わしくて、乱暴に振り払った。そうしてまた心に傷がついていく。
(すまない)
かつては、アルベルトの片腕だった副隊長も、今では死にかけた男の世話役に成り下がっている。彼もまた、呪いの余波に巻き込まれた憐れな男だ。
ライマーは遠征に同行して、唯一呪いを受けなかった。そのせいで、仲間からだけでなく周りからもあらぬ嫌疑をかけられ、地位も名誉も失った。
行き場を失った彼を世話役として側に置いたのは、名目上監視するためだ。
人付き合いがうまく、柔らかい物腰で、場の空気を読むことに長けている。彼の立ち回りの巧さは隊で随一だった。
だが、穿った物の見方をすればしたたかで要領がいいとも言える。ライマーが国に仇なす者と疑われたのも、その人となりが裏目に出てしまった結果だ。
しかしアルベルトは、彼は決して国を裏切らないと確信していた。
裏表を使い分ける男ではあるが、深く知れば、彼が義理堅く、情に厚いことがわかる。
もし、ライマーが国を裏切っていたなら、その罪は親族にも及ぶ。
当時、彼には結婚したばかりの妹がいた。父を早くに亡くしたライマーは、バラデューク伯爵の爵位も早くに継ぎ、それ以来家族をずっと守ってきた。そんな彼が家族を危険に晒すとは考えにくい。
だが、結果的に影響が及んでしまい、悔いた彼は貴族の身分を捨てた。
(もう三年だ)
監視などもちろん名目で、彼が望めば国から出す手はずは整えていた。ライマーほどの実力があれば、どこでも通用するはずだ。
けれど、義理堅い男は今もこうしてアルベルトの側を離れようとしない。
(どういうつもりだ)
側で見せつけられる健康体が恨めしい。抱いた妬みが、じくじくと精神を蝕んでいく。
「もういい、下がれ!」
いや、違う。ライマーに呪いが移る前に、早く逃げてほしいのだ。
「できません。俺は、生涯アルベルト様についていくと決めています」
「そのような忠誠は不要だと言っている! 私を苛立たせるな!」
「アルベルト様、薬を飲みましょう。気持ちを落ち着ける薬です」
「いらぬ!」
薬を持って来いと言っておきながら、ひどい言いようだと自分でもわかっている。だが、どれだけ頭で理解していても、感情がついてこないのだ。
アルベルトは、薬包紙に包まれた薬を忌々しげに睨みつけた。



