堅物王太子が実は××だった件について

堅物王太子が実は××だった件について

  • 発売日2023.09.29
  • 価格¥858(税込)

※価格や発売日はストアによって異なります。

それ以上は生殺しだ!

小国の王女レリアローズは、子供の頃に危ないところを助けられてからというもの、8歳年上の隣国の王太子ルシウスが大好きだった。めでたく婚約者となり、彼のいる王宮で生活することになるが、エスコート以外の接触は皆無に等しく、彼との距離は一向に縮まらない。自分が子供っぽいせいで、妹のようにしか見られていないのでは……と、不安になったレリアローズは、「そうだ夜這いをしてみよう!」と斜め上な発想と淑女らしからぬ行動力で彼の部屋に赴くのだが……。普段堅物すぎるルシウスがなぜか色気たっぷりに迫ってきて――!?

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人物紹介

レリアローズ

ルシウスが大好きな純真王女。実は人の欲望や感情を色で見分けることができる。彼に大人の女性と見られていない気がして大胆な行動に出るが……。

ルシウス

レリアローズのことは心から大切に思っているが、8歳の年の差があるため親のように見守っていた。最近は、漏れ出そうになる欲望を必死に抑えている様子。

試し読み

 ――……やっぱり、いつも通りのルシウス様よね。
 色にも変化は見当たらない。周囲にも違和感を抱いている者はいなそうだ。
 ルシウスと話す人物を注意深く見つめるが、戸惑いの色を放つ者は見当たらなかった。今のルシウスはレリアローズがよく知る人物で間違いない。
 そうであれば、あの夜に会ったルシウスは一体なんだったのだろう。やはり双子の兄弟だろうか。
「欲望渦巻く紫と赤……」
 とても破廉恥な色だった。傍にいるだけで、濃い色香を振りまいていたように思える。
 そんな風に豹変するルシウスも当然ながら嫌いではない。むしろもっと違う一面を見せてくれたほうが、レリアローズとしても両手を挙げて喜びたい。
「そんなところに隠れてないで出てきたらどうだ?」
「ひゃあっ!」
 背後から声がかけられた。
 練習場にいたはずのルシウスがいつの間にか消えている。
「え、えっ!」
 振り返ると先ほどまで見つめていた人物がすぐ真後ろに立っていた。
「ル、ルシウス様……!」
「おはよう、レリア」
 額にじんわりと汗が浮かんでいる。手持ちのハンカチで拭ってあげたい。
 ――あ、ハンカチがなかった!
 スカートのポケットを叩いてみるも、なにかが入っているふくらみは感じられない。
「今日は珍しい恰好をしているんだな。どうしたんだ?」
「あの、これはフォルジュの文官服でして……どうでしょう。似合いますか?」
「……ああ」
 真顔でじっと見つめられながら頷かれた。それはどちらの意味だろう。
 ――似合う? 似合わない? いえ、私はどっちの答えを求めているのかしら!
 いつものドレスが可愛らしいと褒められたいのか、こういう服も新鮮でいいと言われたいのか。
 好きな人から否定的な言葉などほしくない。自分は思った通り欲深いようだ。
「あなたはなにを着ても……その、可愛らしい、と思う」
 ルシウスの眦がほんのりと赤い。
 スッと視線を逸らした表情がとても珍しくて、レリアローズは両目をカッと見開いた。
 ――今の表情……もしかして照れたのかしら? 恥じらう乙女のように!?
 ささやかな変化すらレリアローズは目ざとく拾い上げてしまう。多くの者はルシウスの恥じらう表情など気づかないかもしれない。
可愛らしいなどと言ってもらえたのははじめてではないか。顔に熱が集まってきた。
両手で頬を押さえたい衝動に駆られるが、脳裏に夜のルシウスの姿が蘇る。
 ――やっぱり、あの夜のルシウス様は変だったんだわ。
 恥じらうことも照れることもなく、女性を褒めるなどおかしい。そんな熟練の技は持っていないはずだ。
 至近距離からルシウスを見つめるも、なにも異常は感じられない。
「レリア?」
「あの、ルシウス様。今日一日、お傍にいてもいいですか?」
「……ん?」
「ぜひともルシウス様のお仕事を見学させてほしいのです。もちろん、機密情報などもございますでしょうし、無理にとは言いませんが」
 両手を組んでおねだりする。
 三人の兄王子たちは、なんだかんだで末っ子のレリアローズのおねだりには弱かった。
「私の執務を見ても地味でつまらないだけだと思うが」
「構いませんわ」
「なにも楽しいことはないぞ」
「お仕事をされている姿を堪能させていただくだけでご褒美です」
 ――しまった、最後に本音が漏れたわ。
「ご褒美……?」
 ルシウスが真面目な顔で小首を傾げている。
そんな仕草すら珍しくて可愛らしくて、レリアローズの胸がぎゅんっと掴まれた。
「ええと、そう! これも王太子妃教育の一環ですわ! 将来ルシウス様をきちんと支えられるようになるには、どのような毎日を過ごされているのかこの目で確かめたくて」
「なるほど。一日同行が務まったら褒美がほしいということだな」
「え」
 違う、そうじゃない。
 それでは、ご褒美と引き換えにやりたくないことを我慢するような子供になるではないか。レリアローズは嫌々ルシウスの政務に同行したいわけではない。
 だがルシウスは真剣になにやら考え込んでいる。
――勝手に傍に置いてほしいとねだった上に一日付き合ってあげたご褒美までよこせなんて、聞きようによっては山賊みたいでは? もしかして子供扱いされてる?
「あの、そうではなくて……」
 誤解を解こうとするとルシウスがレリアローズの頭を撫でる。
「見学は好きにしたらいい。夕食後のデザートはあなたが好きなものを作ってもらうとしようか」
「……ッ!」
 ルシウスの大きな手はレリアローズの頭をすっぽり覆う。その逞しさと優しく触れてくれる手つきが胸の鼓動を高鳴らせた。
 子供扱いだと憤慨することも忘れて、レリアローズは首肯し……停止していた思考を素早く回転させる。
「ありがとうございます。デザートもうれしいですが、食後はルシウス様のお部屋でのんびりお茶が飲みたいですわ!」
 優しく撫でていた手がぴたりと止まった。
 こんなささやかな触れ合いですら、温もりが離れるのが惜しい。頭に触れていたルシウスの手を目で追ってしまう。
「私の部屋で、か?」
「ええ、そうです。ルシウス様のお部屋で。ふたりきりで!」
 何故かルシウスが半歩後退した。隙間を埋めるように、レリアローズがすかさず一歩踏み出した。

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