目が覚めたら、聖女に片思い中の幼馴染みとの結婚式でした

目が覚めたら、聖女に片思い中の幼馴染みとの結婚式でした

  • 発売日2024.04.26
  • 価格¥858(税込)

※価格や発売日はストアによって異なります。

やっと会えたんだ、終わりになんてできない。

目覚めたら、幼馴染みのラントとの結婚式の最中で驚くミュゼル。彼は聖女に恋をしていたはずなのになぜ? それになんだか大人の男性になっているような? どうもミュゼルは六年間も眠り続けていたらしく、彼は今、国の最高魔法士になっているという。混乱するミュゼルだが、彼はミュゼルにとって幼い頃から貧民街で苦楽を共にしてきた一番大事な人。偽装結婚と思いつつ彼のためにと受け入れるが、彼は毎夜のようにミュゼルを抱き、頻繁にキスもしてきて……!? 一方ラントは、ミュゼルのある重大な秘密を抱え、一人苦悩していた――。

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人物紹介

ミュゼル

ラントと貧民街で暮らしていたはずが、目を覚ますと六年経っていて大人になったラントとなぜか結婚することになっていた。ラントの聖女への片恋を応援しているが……。

ラント

ミュゼルが眠っていた間に最高魔法士となる。無口で人づきあいが苦手だが、ミュゼルとは貧民街で長く一緒に暮らしていた様子。ある理由で聖女に近づくが……。

試し読み

「……いきなり私と結婚だなんて、なにか事情があるんだよね? 教えてよ、びっくりしたんだから」
「……ごめん」
「違う、怒ってないよ。ただ、事情を知りたいだけ」
 恵まれた育ちではなかったが、ミュゼルは自分を不幸だと思ったことはない。ラントが一緒だったからだ。
 酒場の主人に怒鳴り声で追いかけられようが、隙間風の吹きこむ廃屋で鼠に悲鳴を上げようが、最後はいつだってラントと笑い話にできた。
 積荷を強奪する少年グループの囮役として荷主の気を引いたあとは、必ずラントが助けにきてくれた。
 ラントの存在は、ミュゼルにとって安心感と同義だった。だから、ラントのすることならなんでも受け入れられるし、許せてしまう。
 ラントがズボンのポケットを探り、取り出したものをテーブルの上に置いた。
「覚えてないか?」
 角が取れて丸みを帯びた、なんの変哲もない黒い小石だ。人の手によって何度も撫でられたような光沢があった。
「これ……! 覚えてるよ、もちろん。私があげた石だよね!」
 ミュゼルは石を取りあげ、しげしげと眺める。
 見つけたときは、表面には水気を含んだ苔がついていた。苔は暗がりでほのかに光った。その感動を共有したくて、ラントに渡したのだ。
「ずっとそばにいて、守ってあげる。ミュゼルはそう言った。この石がその証だって」
「そうそう。なにがあっても、ずっと一緒にいるとも約束したね」
「……だからだよ」
 首をかしげるミュゼルに、ラントがぽつりとつけ足した。
「結婚」
 ミュゼルは続きを待ったが、ラントはそれきり口を閉ざす。
「約束したから、結婚するってこと?」
「……ん」
 そんな理由だけで、結婚するだろうか。ミュゼルは釈然とせず、ふたたび小石に目を戻した。
 ラントが聖女に会いにいって留守だったときに見つけたのは、ミュゼルにとってはついこのあいだのことだ。
(わかった、聖女様が理由だ……!)
 つい半年前、ではなく六年半前にサンドリアージュに現れた聖女。
 それは神も運命も信じないと公言していたラントが、人が変わったみたいに夢中になった相手だった。
 もちろん国民の大半が新しい聖女の出現を歓迎したものだけれど、それにしたってあのときのラントの熱の入り方は、半端ではなかった。
(聖女様のこと、周りが目に入らなくなるくらい本気だったもんね。ラント)
 本来ならそう簡単には面会が許される相手ではないのに、ラントが「顕の宮」へ通いつめていたのを、昨日のことのように覚えている。といっても、ミュゼルにとってはまさに「昨日のこと」同然なのだが。
(そっか、今も好きなんだ)
 ミュゼルは一度だけ、聖女に会いにいくラントについて王宮へ行ったことがある。
 王宮の立派な門の前には、聖女出現の噂を聞きつけた人々が詰めかけていた。そのころはまだ聖女は見つかったばかりで、王宮で仮住まいをしていたのだ。
 聖女の姿をひと目みようと身を乗り出す人々を、衛兵が門から引き剥がそうとしていた。
 そんな中、ラントはミュゼルの手を引き、人だかりを縫って最前列を陣取った。
 周囲の人々がミュゼルたちの粗末な身なりに眉を寄せ、体臭に鼻をつまみ、衛兵に追い払えと文句を言う。しかしラントは衛兵の手を振り払って門にしがみつき、敷地を覗いた。
 やがて、純白のドレスを着た聖女が、護衛を連れて王宮の建物から現れた。
 聖女はベールをしており、表情はうかがえなかったが、その場を一掃するような清冽な輝きを放っていた。
 誰もが圧倒された。ミュゼルも息をのんだ。
 そしてラントは……目が陶然として、頬がさながら乙女のように上気していた。
 ミュゼルが話しかけても返事がなく、かと思えば切なげな声で聖女を何度も呼んだ。
 声に気づいた聖女が門に近づいたとき、ラントは彼女の手を引き寄せて口づけを落とした。
 ラントはミュゼルが見たことのない、今にも泣きそうな顔をしていた。聖女を呼ぶ声も上ずっていた。
 あのとき、ミュゼルは人がひと目惚れする瞬間を初めて見たのだ。
 だからラントが王立魔法院に入学した理由も、気づいてみればなんのことはない。特別な力を持つ聖女は、国王の下で魔法士たちに守られている。お近づきになるには、魔法士になるしかないのだ。
 弟を見守る姉さながら、ラントの気持ちを思ってミュゼルは切なくなった。
「ラントは一途だね」
 ラントが咳きこんだ。
「でも近くにいられるようになって……頑張りが報われたんだね。よかった……って、よくないよね、ごめん。近いからよけいにつらい……ってことも、あるもんね」
 どれほど好きでも、サンドリアージュの守護神の祝福を受けた聖女は神のもの。
 聖女との結婚は不可能で、ラントの想いは決して叶わない。
(きっと、このままだと自分の想いが抑えきれなくなると思って、私と結婚したんだろうな。妻がいれば歯止めになるだろうし……)
 ラントは、密やかな想いを抱え続けることに耐えられなくなったに違いない。
 もしかしたら魔法院で誰かに想いを気づかれて、疑いを晴らす必要があったのかもしれない。
「ラント、かわいそう」
「……なんで憐れまれるわけ?」
 剣呑な声で返事をされれば、ますます気の毒に思えてくる。
 誰よりも近くにいながら手に入らないだなんて、想像するだけで心臓がぎゅっとつかまれるようだ。
(できればラントの口からちゃんと説明してほしいけれど……聖女様に想いを寄せていることすら、ずっと私に隠してるくらいだもん。言えないよね……)