奴隷闘士に溺愛されてますが、呪いのせいなので早く正気に戻ってほしい

奴隷闘士に溺愛されてますが、呪いのせいなので早く正気に戻ってほしい

  • 発売日2024.09.27
  • 価格¥880(税込)

※価格や発売日はストアによって異なります。

愛しくてたまらない。この気持ちが偽りだと?

国を追われて奴隷となり、伯爵家で働いていたラミは、奴隷闘士クラドと出会う。ひとりだけ足枷をつけているにもかかわらず、試合に出たら負けなしで、戦闘狂と言われる彼。そんな彼に手違いでキスをされてしまったラミは、彼から執拗に構われるようになり、しまいには強引に連れ去られてしまう。さらには、足枷を外した途端、別人のような雰囲気を放ちはじめた彼に「お前が欲しい」と情欲の絡んだまなざしを向けられて……。なんと彼はラミの故国の貴族で、呪いにとらわれラミを愛するようになってしまったらしく――!?

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人物紹介

ラミ

侍女として仕えていた家が国外追放となり、自身も奴隷商人に売られてしまう。以後、まじめに働きながら、仕えていた令嬢を探している。クラドになぜか異様に執着されている。

クラド(イザーク)

戦闘狂とも言われる最強の奴隷闘士。初対面からなぜかラミに執着している。実は隣国の将軍で、足枷を外した時に最初に見た者を愛するという呪いをかけられている。

試し読み

 ラミはひとり、片手に黒革の鞄を下げて、ひんやりと冷たい石畳の回廊を歩いてゆく。点々とランプが置かれ、ところどころに監視人が槍を持って立っている。顔見知りの監視人と挨拶を交わしながら回廊を抜け、最初に三十一番の牢の前に立った。
 中に居たのは少し細身の男だ。剣の腕が立つようで、試合では素早い動きで猛獣を仕留めていた。背中に酷い裂傷があるが、幸い骨や筋肉までは至っていないようだ。栄養状態がやや悪いが若く健康そうで、きちんと食事をとれば労働力として問題ないだろう。ラミは黙って男の背傷の砂を払い、軟膏をつけてやった。
 男は痛みに顔を顰めながら“ありがとう”と隣国フェレイラの言葉で礼を言った。この男も同郷らしい。ラミはひとつ頷き、言葉を交わすことなく三十一番の牢を出た。
 次に四十三番の牢へ向かう。監視人が柵を開けると、こちらに背を向けて木の椅子に腰かけている男が居た。どかりと脚を組み、居眠りでもしているかのように項垂れている。丸まった広い背中のあちこちに小傷はあるが、見たところどれも新しい怪我ではないようだ。
 四十三番ってどんな試合をしてたっけ、と思い出しながら、ラミは薬の入った鞄を床に置いた。
「ごめん、触るね」
 小さな傷の状態を確かめるように指先で軽く撫でると、俯いていた男がぴくりと反応した。治りかけてはいるが一応薬を塗っておくか、と鞄の中から傷薬を出そうとした、次の瞬間──。
 いきなりぐいと肘を引かれて、ラミの両脚がふわりと宙に浮いた。
 とっさに、闘士だったときの感覚が蘇る。身体を捻り受け身を取りながら、肘を掴んだ男の頭に蹴りを食らわせようとした。
 しかしラミの脚はがしりと受け止められ、いとも簡単に倒されて硬い土の床に縫い付けられる。
 ぐっと肩を押さえつけられ、膝から下に逞しい脚がぎしり、と伸し掛かった。こちらをじっと見下ろしている瞳の色は、ペールグリーン。ぼさぼさの銀の髪。ぴくりとも動けない。すごい力だ。
 どうにかしなければ……と視線を巡らせるが格子の外には誰も居ない。牢の監視人は向こうで他の客に対応しているようだ。
 脛のあたりにじゃらりと冷たい金属の感触を感じて、ラミはハッとした──もしや自分を押さええつけているこの男は──例の足枷をつけた無敵闘士、クラドではないか?
 領主はクラドのことを『戦闘狂』などと苦々しく評していた。そんな奴隷を果樹園の労働者として買い上げるわけがないから、ラミは部屋を間違えてしまったのだろう。
 手違いだ──と口を開こうとしたところ、急に視界が暗くなり、柔らかいものがラミの口を塞いだ。
「ん、うう……く……」
 いったい何が起こっているのか。角度を変え、幾度も幾度もねっとりと唇を貪られる。冷たい土の床と熱いクラドの吐息を肌に感じながら、ラミは抵抗も忘れてされるがまま、呆然とその熱を受け止めていた。
「──やめろ、クラド! その娘は違う!」
 牢の外から監視人の怒号が響き渡り、クラドの動きがぴたりと止まる。
 ふぅ、と軽い吐息が漏れて、ラミの身体からふっと重みが消えた。
「違う……?」
「ああ、お前の身体目当てのご婦人ではない。その娘は医師の助手。手違いだ」
「助手……」
 クラドはラミの二の腕を掴んでぐいっと勢いよく引き起こした。目をまん丸にして固まっているラミの顔を、銀の髪の隙間からまじまじと見つめる。
「どうりで……若いと思った」
 クラドがぼそりと呟くと同時に、ラミの掌が男の頬をぱあん! と打った。一切の手加減がない勢いに、鬱陶しく被さっていた銀の前髪が弾け、ペールグリーンの瞳がちらりと見えた。
 どうやら、手違いで四十八番のクラドが四十三番の小屋へ入れられていたらしい。駆けつけたデゴ爺と監視人にすまんすまん、間違えたと謝られたが、謝ってすむ問題ではない。
 立ち上がったラミはクラドに背を向け、涙目でわなわなと両拳を握りしめる。
「信じられない! は、初めて……だったのにぃ……」