恋愛なんてする気がないのにサイコパス童貞騎士に執着されてます
- 発売日2024.11.29
- 価格¥836(税込)
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結婚しないって? しますよ、私と。
ある目的のため、社交界で情報を集めていたレイモンド。際どいやり方のせいで「大物なら誰とでも寝る女」と噂されるが、実は体は清いまま。そんなある夜、美貌の白騎士シャルルと出会う。初対面で熱烈に口説いてきたあげく、酔い潰れてしまった彼。冗談のつもりで、「寝ている間に弄んでやった」と告げると、「覚えていないからもう一度」と、強引に押し倒されてしまう。話の通じない彼に散々抱かれた翌朝、レイモンドは逃げるように部屋を後にするが、「私を汚した責任を取ってください」と微笑むシャルルが屋敷に押しかけてきて……!?
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人物紹介
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レイモンド
王への反逆罪で処刑された母の無実を晴らすため、社交界で情報を集めている。結婚しないと言っているのに、まったく話が通じないシャルルに付きまとわれて困惑するが、何でもすると言うので利用することにした。
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シャルル
女性のみならず他人に興味がなかったが、友人に無理やり出席させられた仮面舞踏会でレイモンドと出会い、一目惚れする。彼女と結婚することは彼の中では決定事項。話が通じない忠犬。レイモンドの情報収集に協力する。
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「こんにちは。レイモンド。今日は赤いドレスをお召しなのですね。やはり運命だ。昨夜の瑠璃色のドレスも素敵でしたが、昼間のあなたもまたこの薔薇のように美しい」
そう言いながら、太陽のように美しい笑顔で大輪の赤い薔薇の花束を抱え玄関先に立っているシャルルを見て、レイモンドは唖然として棒立ちになった。
「な……、何で、あなた、私の家に」
「オルトワ伯の令嬢だと友人に聞いておりましたので」
そうだった。彼らはレイモンドの素性を知っていたのだ。あの悪夢の部屋からこっそり抜け出そうと、この男から逃れられるはずはなかったのだ。レイモンドは己の浅はかさに歯噛みした。
白い大理石と金の装飾を基調とした吹き抜けの玄関に立つシャルルは、まるで神聖な宗教画から抜け出してきた天使のように眩く、壮麗だった。客人を迎える使用人たちも一様に青年のあまりの美しさに魂を抜かれたようになっている。
「目が覚めたらあなたがいなくなっていたので、驚きました。まさか、あの神々しい女神との出会いはただの美しい夢だったのではないかと……そんな風に錯覚したものです」
「私も夢だったのかと思ったわ。夢と言っても悪夢だけれど」
「悪夢と呼べるほど、私を色濃く記憶に刻みつけていただけたのですね。私たちはきっと同じ夢を見ていたのでしょう。天使のようなあなたを愛する罪深さで、私は夢で悪魔になってしまったのかもしれません」
「……あなたって本当に語彙が豊富ね。作家にでもなったらいいんじゃない」
「私の言葉はあなたの前でしか意味がありません。あなたを見るととめどないほど称賛があふれ出てしまうのです、愛しのレイモンド」
嘘のように整った麗しい唇から次々と情熱的な言葉が紡がれてゆく。こんな美青年にこれだけのことを言われれば、大半の女性は一も二もなく夢中になってしまうのだろう。けれどレイモンドは知っている。この男に関われば死ぬほど面倒な事態にしかならないということを。
「悪いけど、あなたとお喋りしている時間はないの。帰ってくださる」
「そうですか。お忙しいところ申し訳ありません。それでは、日を改めます。明日はいかがでしょうか。今日は休みでしたのでこうして昼過ぎに参上しましたが、明日は務めを終えた後ならばいつでも」
「そ、そうじゃないの。何度来てもらったって困るのよ。あなたとは話したくないの」
レイモンドの拒絶の言葉が理解できなかったのか、シャルルは首を傾げる。
「え? 話をしたくないのですか。なぜ……」
「なぜって、そんなの言わなくてもわかるでしょ」
「わかりません。私があなたと会えない理由など」
「よくもそんなことが言えるわね。呆れるわ」
怒りで顔が熱くなる。まさかあの行為が合意の上だったとでも思っているのだろうか。こちらは散々拒否したというのに、ただそれをまるで聞かなかったというだけではないか。
「言っておくけど、私はもうあなたのことなんか忘れたいの。なかったことにしたいのよ」
「な、何ですって。なかったことに? 私とのことを?」
シャルルの顔が絶望に染まる。悲しげな表情をするとき、その青い瞳は憂いを帯び、また一層青年の美しさをドラマティックに彩ってしまう。
「いけません。そんなことは、神がお許しになりません」
「神様が許さないのは、あなたの行動の方だわ。胸に手を当ててよく考えることね」
「私たちの出会いは運命だったのです。私は確かに神の啓示を感じました。私はこの人に生涯愛を誓うのだと」
やはり言葉が通じない。会話ができない。昨夜と同じだ。
レイモンドは頭痛を覚えてため息を落とす。こんな風に無駄な会話をしている時間が惜しい。もはや頭には一刻も早く追い返したいという願いしかなかった。
「ああ、もう何でもいいわ。神様がどうの啓示がどうの、どうでもいいからとりあえず帰って。そして二度と私の前に現れないで」
「い、いけません、レイモンド。あなたに会えないなんて呼吸をするなというのと同じことです」
「知らないわよ。息でも何でも勝手に止めてなさいよ」
シャルルは青い目に涙をいっぱいに溜めて、薔薇の花束を抱き締めて震えている。そのいじらしい様は可憐な乙女のようだ。そんなわけはないのに、まるで自分の方が無慈悲なことを言っているように錯覚してしまう。
「なぜそんなひどいことを言うのですか……! あんなに……あんなに私をメチャクチャにしたくせに!」
「ちょっ……!? 私をメチャクチャにしたのはあなたでしょ!」
大声を出した後にハッと気づいて周りを見回す。使用人たちが好奇心丸出しの顔で自分たちに注目している。レイモンドは恥ずかしさで頬が燃えるかと思った。