10年前に諦めた初恋の人と政略結婚することになりました

10年前に諦めた初恋の人と政略結婚することになりました

  • 発売日2025.01.31
  • 価格¥814(税込)

※価格や発売日はストアによって異なります。

君がこの地で幸せでなければ、私は迷わず罪を犯しただろう。

正統な王女であるのに異母兄に王位を奪われ、悪名高い老公爵に嫁がされたティファニー。それでも領地を立て直すべく奮闘した結果、公爵が病死した後も領民はティファニーを慕い続け、彼女も彼らを家族のように大事に思っていた。だが結婚から10年経ったある日、公爵家の嫡男アロイスがやってくる。親戚である彼はティファニーにとって兄のような人。そして、10年前に諦めた初恋の人。動揺を隠しつつ、再会を喜び歓迎するティファニーだったが……。苦悩を滲ませるアロイスから、領地を離れて自分と結婚するよう伝えられ……!?

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人物紹介

ティファニー

国王であった父が公妾の言いなりだったため幼い頃から宮廷で冷遇され、14歳で老公爵へ嫁ぐことに。現国王である異母兄の危篤の知らせを受け、アロイスとともに王都に戻ることになる。

アロイス

公爵家の嫡男。子供のころからティファニーを見守っていた。父である公爵が王位を継ぐことになり、国の安定のためにとティファニーに結婚の申し入れをするが、どこか苦しそうで……。

試し読み

「ティファニー、話があるんだ」
「……なに?」
 ティファニーが再び腰を下ろすとアロイス自身は地面に片膝をつき、こちらを振り仰いでくる。
「十年前、君の結婚を阻止できなかったこと、本当に申し訳なく思う。君を守ると言っておきながら、結局は何もできなかった」
「それはもうすんだこと――……」
 言いかけたティファニーの右手を、彼はそっと取った。
「…………っ」
 突然のことに息を飲む。ふれ合っている右手が熱い。
 いつもの厳しく無愛想な言動からは、想像できないほど優しい感触。
 彼と二人きりでいる事実に、どうしても恋心が震えてしまう。
「だが君は私の心配をよそに、ルーラ公爵夫人として立派に振る舞い、土地に恩恵をもたらした。尊敬する。とはいえそのため、君を王位に就けようと画策する輩が少なからずいることは、昨日も話した通りだ」
 右手を取られていると思うと、彼の言葉も、思考の表面をさらさらと流れていくばかり。
 ティファニーは早く離れてほしい一心で、こくこくとうなずいた。
 するとアロイスはそこで言葉を切り、まっすぐ見上げてくる。
 屋敷から漏れてくるわずかな明かりが、そんな彼の端正な面差しを照らす。長めの前髪がかかる秀でた額。すっと通った鼻筋。くっきりと目立つ瞳。きれいなくちびると、男らしい顎の線。麗しい顔とは裏腹に、たくましい首筋と肩。
 思わず見とれるティファニーを、彼もまた真摯に見つめてくる。どこか思いつめたような眼差しの凄みに、わずかにひるみそうになった時、彼は静かに言った。

「私と結婚してほしい」

「え?」
「父の王位継承を滞りなく進めるため、そして内憂を片づけ一致団結して外患に向き合うため、どうしても必要なことなんだ」
「――――……」
 頭が真っ白になる。
 そんなはずはない。真っ先に思い浮かんだのは、アンが言っていたこと。
『公爵は、コーネリア様をアロイス様と結婚させるために引き取られたと話す者もいて』
 聖王庁との縁作りのため、アロイスはコーネリアと結婚するはずだったのでは?
 先ほどアロイスは彼女を抱きしめていた。つまり五年前に引き取られたコーネリアと彼は、公爵の意図した通り特別な関係になったのでは?
 ぐるぐると回っていた考えが、その時ふと止まる。
 先ほどコーネリアは何と言っていたか。

『心配しないで。あなたは、やらなければならないことをして』

 あれは、このことを意味していたのだろうか。
 公爵が予期しなかった、突然の国王の事故死。そのせいで事情は変わってしまった。公爵は聖王庁とのつながりよりも、自身の王位継承と、その後の混乱を乗り越えることを優先する必要に迫られた。
 よってアロイスは本来結婚するはずだったコーネリアではなく、ティファニーに急いで求婚しなければならなくなった――
「…………」
 気持ちは混沌としている。その事実を歓迎しているのか、忌避しているのか、自分でもわからない。
 だが二人が抱擁しているのを見た時と同じくらい苦しかった。アロイスの気持ちは? コーネリアは?
 まさか自分の存在が二人の間を引き裂くことになるなんて。
 二人のどちらにも感謝と好意を抱いているだけに受け入れがたい。
 しかし――
 自分の心を正直に見れば、あらゆる感情をさておいて、抑えきれない歓喜があった。
『私と結婚してほしい』
 真剣なアロイスの目に、言葉に、声に、甘美な衝撃を受け、胸が痺れる。興奮のあまり手が震えてしまう。たとえ政略だとしても、途方もなくうれしかった。
(でも……、でも……!)
 降って湧いた幸運を素直に喜ぶこともできない。混乱し、言葉が出てこない。
 それをどう受け止めたのか。アロイスは傷ついたように顔を曇らせた。
「返事は今でなくてもかまわない。だが……」
 言いかけて言葉を飲み込む。彼は再会してから今までの中で一番つらそうな顔をしている。
(そうか――)
 その時察した。
 再会してからずっと暗い顔をしてきたのは、彼がすでにこの可能性を察していたためか。
 頭の回転の速い彼は、国王危篤の報を受けた瞬間、父親の即位とティファニーとの結婚が別個に語れないものになると予想した。だからコーネリアとの関係を考えて苦しんでいた。
(それなのに私は単純に喜んで……!)
 幸せを求める自分勝手な感情が、国政のために必要なことだというアロイスの言葉を、都合よく前面に掲げてくる。
 彼の求婚を受けるのはティファニーの義務であり、責務だ。
 だからこそ彼も求婚してきた。国のために自分を捧げるつもりで。――恋人を想う心を押し殺して。

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