
私にだけ意地悪な幼馴染の王子様がキャラ変して甘やかしてきます
- 発売日2025.03.28
- 価格¥880(税込)
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俺がお前を可愛いと言うのは
そんなにおかしなことか?
『痩せの大食い』のセラフィーナは、伯爵令嬢なのに自ら料理もする変わり者。そろそろ結婚相手を探す年頃だが、自分の食事量に理解のある相手はなかなか見つからない。そんな時、幼馴染で第二王子のルカから料理係を頼まれる。妖精の悪戯で味覚が無くなったという彼は、セラフィーナの料理だけは味がするらしい。その境遇に同情しつつも、セラフィーナは、昔から意地悪な彼が少し苦手。だが好条件と引き換えに期限付きで引き受けることに。そんな中、セラフィーナは自分の大食いに引かない男性と出会う。ようやく春が来たのではと喜ぶが、それを聞いたルカの様子がおかしくて……?
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人物紹介
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セラフィーナ
一日五食をぺろりと平らげる燃費の悪い伯爵令嬢。家族とルカ以外には大食いを秘密にしている。ルカとは遠慮のいらない間柄だが、なぜか昔から自分にだけ口が悪いので、いつものように喧嘩をしている。
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ルカ
第二王子で騎士団の副団長。誰もが見惚れる美貌を持ち、仕事もできるので、令嬢たちからの人気も高い。どうしてかセラフィーナ相手だと素直じゃない言動をしてしまう。
試し読み
「去年の死者の日の翌日から味が消えた。それに城内の見回りをしていたときに奇妙な現象に遭遇した。十中八九呪いを受けたんだろう」
「去年の死者の日って、もう十か月くらい前じゃない?」
今は九月中旬だ。本格的な秋にはまだ早いが、夏の暑さは和らいでいる。
――死者の日は毎年十一月の満月の夜だから……、それからずっと味のない生活を送ってたってこと!?
セラフィーナはぞっとして青ざめた。十か月もおいしい食事をとれていないなんて。自分なら三日で寝込んで絶望するだろう。
「胸の中をなにかが通り抜けた奇妙な感覚が消えない。あの現象が原因で味覚だけが消えたのなら、大元をさっさと捕獲したいところだが」
「まあ、次の死者の日を迎えない限りは難しいよね。あの日は一年で最も、様々な境界線が曖昧になる日だから」
ルカの発言にリベリオも頷いた。
死者がこの世に戻ってくるだけではない。普段は目にすることも存在を感知することもできない生物と遭遇する可能性が高くなる。
天使がいれば悪魔もいる。精霊も妖精も、死者も生者と共に祭りに混ざって賑やかな一夜を過ごすのだ。
だからうっかり別の世界に攫われないように仮装をするのだが、彼はきっとなにもしなかったのだろう。
「悪戯好きな妖精にからかわれるなんて、子供の頃に読んだ絵本のままじゃない……なにやってんのよ、ルカ」
「うるさい。俺だって意味がわからん」
ぶすくれた顔は子供の頃と変わらない。
図体はデカくなったが、彼の本質は昔と同じようだ。
リベリオは笑いながらルカの肩に手を乗せる。
「次はルカも仮装しておいた方がいいね。みんなでお揃いの獣の耳をつけようよ」
「絶対嫌だ。そもそも魔除けの指輪を付けていたから仮装なんて不要だったはずだ」
騎士は皆、普段の制服のまま頭に獣の耳を装着していたらしい。
いかつい騎士たちがふわふわな耳をつけているところを想像して、セラフィーナは小さく噴いた。
「お兄様もつけてたの? 見たかったわ」
「僕の仮装ならいつでも見せてあげるよ。案外好評だったんだよ?」
――でしょうね!
リベリオは老若男女に好かれる人たらしである。髪と目の色はセラフィーナと同じだが、纏っている空気は少し異なるらしい。
――お兄様はモテるから、獣の耳をつけたら人が集まって警備どころじゃなくなりそうね。
残念ながらセラフィーナはリベリオほどモテたことはない。
「ええっと、それで、魔除けの指輪はポンコツだったってわけね?」
「よくわからないが、急に亀裂が入ったんだ」
石が割れた直後に妖精らしき声を聞いたらしい。そこまで言うなら、妖精の呪いを受けたことで間違いないだろう。
――お城に妖精が棲んでいるなんて、絵本のままじゃない。あれって実話だったのね。
少しロマンを感じてしまった。一度くらいは妖精に会ってみたい。
「それでルカの味覚なんだけど、今まで散々あれこれ試したんだけど全滅だったんだよ。薬も煎じてもらったけれどダメで、結局料理はなにを食べても味がしないって。無味無臭の食事なんて、僕たちにとっては拷問みたいなものだよね」
「私、今心底ルカが可哀想だって思ってる。同情するわ……」
ふたりから憐みを向けられて、ルカは微妙な表情を浮かべた。
――ああ、だからやつれているように見えたのね?
仕事の忙しさもあるだろうが、食事が疎かになっているのは当たっていたようだ。自然と食事量も減るため体重が落ちたのだろう。
「でも栄養飲料は飲んでいたのよね。飲み物の味もしないの?」
「変わらないのは水だけだ。他はなにも感じない。強いて言えば泥を食べているような気分になる」
――味覚を奪われたというのに、泥を食べている気分って一体?
そもそも泥を食したことがないため想像もつかないが、とてもマズイということはわかった。
「……あれ? でも昨日、私が作ったマフィンはうまかったって言わなかったっけ?」
先ほども気のせいではなかったら、うまいと言っていたはずだ。
ルカの目の前に置いてあったサンドイッチとミートパイは綺麗になくなっている。
瞬く間に完食していて驚いたのだが、味がしないのであれば料理を作れなどと命じないのではないか。
「察しが悪いな。だからお前に専属の料理人になれと言ったんだろうが」
「あのね、ちゃんと説明してくれないとわからないから。……つまり、私が持ってきた食事だけ味を感じられたってこと? なんで?」
使っている食材は一般的なものだ。ベルトネッリの伯爵領で採れた野菜や調味料くらいしか違いがないだろう。
ルカに尋ねるも、彼ははっきりと「わからん」と答えた。
――ああ、なるほど。それを検証するためにも私に作れと……。
なにが違うのか、どうしてセラフィーナの料理にだけ味を感じることができるのか。
同情する気持ちはあるが、離宮に住み込みで働けと言われると気が進まない。
「たまに差し入れを持ってきてあげるだけじゃダメなの? もう十か月近くもこの状態で我慢できたなら、あと二か月くらい我慢できるんじゃない?」
――まあ、次の死者の日に呪いをかけた妖精を捕獲できるとは限らないけれど。
そもそもどうやって妖精を捕まえるつもりなのだろう。それに呪いを解かせる術など想像もつかない。
ルカはわかりやすく機嫌を損ねた。
「お前はさっき味覚がないのは拷問だと言ったな? その拷問から逃れる術を見つけたというのに、責め苦を受け続けろと言うんだな?」
拷問だと言ったのはリベリオであってセラフィーナではない。
「可哀想だと思ってるし同情もしているけれど」
「けど?」
「正直面倒くさい」
「……」
はっきり断ると、両手で頬を引っ張られた。
こういう子供っぽいいじめをするところも昔から変わらない。
「いひゃい~!」
「へえ、相変わらずほっぺたがよく伸びるな。頬袋でも隠してるんじゃないか?」
失礼な男だ。セラフィーナはルカの手をぺしんと叩く。
「……もう! 王子のくせに手が悪い! みんなが憧れるルカ殿下の本性はこれですよって言いふらしてやりたいわ」
「できるもんならやってみろよ」
言いふらしたところで皆が信用するのはルカである。誰もセラフィーナの発言が真実だとは思わないだろう。
ほんのり赤くなった頬に触れながら、セラフィーナは強気な目を向けた。
「そもそもお願いする立場ならもっと丁重に、真摯におねだりしたら? 私が自主的に協力してあげたくなるように」
お願いします、助けてください。と頭を下げられたら考えてやらないこともない。
――あ、ちょっと気分がいいかもしれない。
想像だけでニヤリと笑うと、ルカはなにかを考えこむ様子を見せた。
「俺はお前を雇うと言ったんだが。タダで奉仕しろとは言ってないぞ」
「え?」
「きちんと条件をつける。まずセラの衣食住は保障する。食材は使いたい放題で足りないものはいくらでも発注していい。城には新鮮で珍しい食材も集まるから、お前も楽しく料理ができるだろう」
「食材が使いたい放題?」
セラフィーナの目がキラリと光った。
普段の手作りのお菓子やサンドイッチなどは余った食材を使用することが多い。
毎日の食事はきちんと屋敷の料理人が管理しているため、使ってよいものを確認しながら作っていた。
「俺の食事は三食用意してほしいが、セラは食べたいだけ食べていい。自分で作るんだから誰も文句は言わない。下準備や皿洗いには人手も必要だろう。ちゃんと使用人も手配するし、余った時間は好きに過ごせばいい」
予算無制限で作りたい放題。三食どころか五食でもいいし、空いた時間で昼寝付きらしい。
――わ、悪くない条件ね?
セラフィーナの身体がそわそわしはじめた。