結婚or没落?~引きこもり令嬢は大魔術師の一途な愛に気づかない~

結婚or没落?~引きこもり令嬢は大魔術師の一途な愛に気づかない~

  • 発売日2025.04.25
  • 価格¥880(税込)

※価格や発売日はストアによって異なります。

逃げないで。君のためにもこの婚約は必要なんだ。

ある出来事で、将来有望な魔術師オズヴァルドの不興を買ってしまったシャルロッテ。報復を恐れ、社交界デビューもせず屋敷に引きこもっていたが、強制参加のパーティで、避けていたそのオズヴァルドと対面することに。穏やかに微笑む彼の様子に、自分のことは覚えていないようだと安堵するが、なぜか彼はその後もシャルロッテをダンスに誘い、積極的に話しかけてくる。だがそのことが、オズヴァルドと結婚したい第三王女を刺激してしまい……!? いつの間にか国にとって重要人物になっていたシャルロッテは、断りづらい縁談から逃れるためにオズヴァルドと婚約することになるのだが……。

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人物紹介

シャルロッテ

オズヴァルドのことは密かに慕っていたが、四年前、ある出来事で彼を怒らせ嫌われたと思い込み、以来彼と会うのが怖くて引きこもりになる。

オズヴァルド

筆頭侯爵家の嫡男にして、王宮魔術師の最高位である「大魔術師」の称号を持つ。女性に冷たいと噂されるがシャルロッテには優しい様子…?

試し読み

「あ、いたいた。シャル、こんなところにいたんだね」
 とどこかで聞き覚えのある声に呼びかけられ、振り返るとそこにいたのは従兄のラウルだった。
「ラウルお兄様……」
 笑みを浮かべたラウルがシャルロッテの目の前に立っている。身長の高いラウルに立たれて視線が遮られているせいでよく見えなかったが、周囲がざわついているように聞こえるのはきっとオズヴァルドと人気を二分する王宮魔術師がこんなところにやってきたからだろう。
「ラウルお兄様、今日は声をかけないでって言ってあったでしょう?」
 ついシャルロッテは口を尖らせる。
 ラウルに声をかけられると目立って仕方ないので、あらかじめ自分のことは無視するように言っておいたのだ。けれど、ラウルの性格を考えたら面白がってわざと声をかけてくることは十分に考えられた。
「大事な従妹を無視するわけにはいかないだろう?」
 にこにこ笑って返答するラウルに、思わず奥歯をかみしめる。
 ――絶対わざとだわ。
 紺色の礼服に黒いハーフコートを纏ったラウルは、端整で優しげな顔立ちで、貴公子という言葉がよく似合う外見だ。しなやかな体躯に背中の真ん中まである長い淡い金髪を一本にゆるく括った姿は、がっしりとした体格の王族よりよっぽど「王子様」らしい風貌をしている。
 人当たりもいいので、女性の人気はとても高く、いくつも縁談話が持ち込まれていることをシャルロッテは知っている。
 けれど柔和な外見と柔らかな物腰に反して中身はかなり腹黒い。意外に辛辣で、にこにこ笑顔を振りまきながら敵を容赦なく叩き潰すタイプなのだ。
「何か御用かしら? 私、そろそろ帰ろうかと思うのだけど」
 少しそっけない口調で言うと、ラウルはにっこり笑った。
「帰る前に君に紹介したい人がいるんだ。オズヴァルド、ほら、僕の大事な従妹のシャルロッテだよ」
 言いながらラウルはすっと横に一歩ずれた。そのとたん、ラウルに隠れて見えなかった後ろの人物がはっきりと目に映る。
「え……?」
 目の前に立った人物に、シャルロッテは一瞬虚をつかれ、その次にサッと青ざめた。
 なんとオズヴァルドがすぐ間近に立っていたのだ……!
 ――ま、まずいわ! 四年前、指輪の石を割ったのが私だってばれてしまう……!
「あ……の……」
 バクバクと心臓が破れる勢いで鳴り響き、足がガクガクと震える。背中からどっと汗が噴き出るのを感じた。
 だがそのすべてが次のオズヴァルドの言葉で止まった。
「初めまして、シャルロッテ嬢」
 にこりとオズヴァルドが笑った。
「……は?」
 ざわっと周囲がとたんに騒がしくなる。けれどシャルロッテの耳には届いていない。笑顔を向けられ、頭が真っ白になっていたからだ。
 たっぷり五秒ほど経ってからようやくシャルロッテの思考が動き始める。
 ――は、初めまして? も、もしかして、覚えていない? 四年前に後ろを追いかけた上に指輪の石を割ってしまった少女が私だってことに気づいていない……?
「あ、あの、初めまして……。シャ、シャルロッテ・クラインと申します」
 上ずりながらも挨拶をすると、再びオズヴァルドが笑顔になった。ざわめきがますますひどくなる。
「え、笑った? あのオズヴァルド様が?」
「笑顔なんて初めて見るが?」
「え、何か天変地異の前触れ?」
 信じられないものを見たようなつぶやきがあちこちから起こる。けれど、当のオズヴァルドは気にした様子もなく、微笑みを浮かべてシャルロッテを見下ろしている。
「アーロン副師長の娘さんですね。お会いしたいと思っておりました。けれどなかなか機会に恵まれず」
「そ、そうですか」
「……うわ、うすら寒い……」
 横でラウルが顔を引きつらせているが、これもまたオズヴァルドはまるっと無視した。
 ――やっぱり私だと気づいていないんだわ! そ、そうよね。四年も前のことだもの。
 シャルロッテはホッとする一方でなんだか複雑な気分になった。オズヴァルドを恐れて四年もの間引きこもっていたのに、当の本人はまったく覚えていないとは。
 ――この四年間、いったい何だったのかしら?
 思わず遠い目をしていたため、目の前にすっと差し出された手に反応するのが遅れた。
「お近づきのしるしにダンスを申し込みたいのですがいいでしょうか?」

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