数日だけ日本に里帰りしたつもりの私と、五年間の喪失に耐えた(元)少年騎士の物語

数日だけ日本に里帰りしたつもりの私と、五年間の喪失に耐えた(元)少年騎士の物語

  • 発売日2023.08.25
  • 価格¥836(税込)

※価格や発売日はストアによって異なります。

子供扱いする度に、俺が大人だって証明してあげますね。

聖女として異世界に召喚された私は、共に旅をした仲間の騎士リオレークから、突然愛を告げられ動転した。だって彼は私より七歳も年下の未成年なのだ。彼のことは好きだけど弟のようにしか見られない。しどろもどろに断った私は、自由に行き来できるようになった日本に一度帰って、彼と少し距離を置くことに。それから五日後、異世界に戻った私の前に現れたのは、美しくも逞しく成長したリオレークで――!? えっ、こっちの世界では五年も経ってるって? ……ところでリオレーク、なんでそんな怖い顔で私を押し倒してるのかな……?

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人物紹介

ミツバ

聖女として召喚され、無事役目を果たす。リオレークの自分への想いは思春期の気の迷いだと思っていたが……。

リオレーク

聖剣に選ばれた最強騎士。七歳差で未成年であるのを理由にミツバに振られ消沈していたが、大人になり二歳差になったことで箍が外れた様子。

試し読み

「ねぇねぇ、そこの君! 昨日からこの街に滞在してる聖女様だよね!?」
 出店が並ぶ市場の大通りを歩いていると、突然背後から大きな声で呼び止められる。
 何事かと思いながら振り向くとそこには、良く言えばコミュニケーションが得意そうな、悪く言えばちょっと軽薄そうな男の人が立っていた。
 年齢はたぶん二十歳前後で私と同じくらいだけれど、その榛色の髪にも瞳にも見覚えはない。
「えっと、確かに私は聖女として旅をしてますけど、何かご用ですか……?」
「おぉ! 噂の聖女様本人に会えるなんて俺ってラッキー! 君、小動物みたいでかわいいね。聖女様なのに親しみやすそう! 今日はどうしたの? なんで一人なの? 旅の仲間は? まぁイイや、俺さ、この街じゃちょっと目立つ存在なんだけど、良かったら俺のダチたちと遊ばない? 聖女様が来たらみんな喜ぶからさぁ!」
「え、いや、私このあと予定があるので」
「じゃあちょっとだけ! ちょっと顔出すだけ! ほら、『呪いの病』のせいでさぁ街の空気がずっと辛気臭いわけよ。だから世界を救う前に、まずは俺の周りを元気にしてよ! 聖女様を連れて行けば俺も自慢できるし!」
 そう言うと、青年は強引に私の腕を掴み歩き出そうとする。
「待って、困ります! 放して……!」
「大丈夫大丈夫。ダチみんなイイ奴だから!」
 どうしよう、話が通じない。
 石畳の上で足を踏ん張るけれど、日本人の平均的な筋力しかない私が男の人の力に敵うはずもなく、そのままズルズルと引っ張られてしまう。
「やめっ……」
 怖い。行きたくない。
 もしかしたら本当に自分の友達を元気づけたいだけの人かもしれないけれど、強引過ぎる。
「――その汚い手を、聖女から放せ」
「ひぃっ!?」
 音もなく、私の腕を掴んでいた青年の喉元に銀色の刃が突きつけられていた。
 手入れの行き届いたそれは、あと少しでも力を込めたら簡単に彼の肉体を傷付けることができるだろう。
 しかもきっと、この剣の持ち主はそれを躊躇しない。
「聞こえなかったのか? この方は、お前みたいな男が触れていい存在じゃない。さっさと手を放せと言っているんだ」
 まるで言葉だけで相手の心臓を止めることができるんじゃないかと思うほどの殺気が込められた冷たい声。
 その声はよく聞けば変声期を迎えたばかりの少年のもので、剣を持つ彼の身体も私と同じくらいの体格だ。
 けれど今、この場の生殺与奪権は完全に彼が握っていた。
 その証拠に、私の腕を掴む青年は少年の纏う空気に圧倒されて動けなくなってしまっている。
「おい。放さないのなら、俺がその手を叩き斬って――」
 あ、マズい。このままじゃ、お昼時の大通りが惨劇の現場になっちゃう。
 大切な旅の仲間である彼をこんなことで犯罪者にするわけにはいかない。
 そう判断した私は、自分の腕を掴んでいた青年を渾身の力で突き飛ばした。
「……っ!」
 怯んでいた青年の手はあっさりと私から離れて、彼はヘナヘナと膝からくずれおちた。それだけ少年の殺気が恐ろしかったのだろう。
 私は青年の喉元に傷がついていないことを確認してから、少年に向かってわざとらしく大きな明るい声を上げた。
「わーっリオレーク良かった! 迷子になってどうしようかと思ってたんだけど、リオレークが迎えに来てくれて助かったよー!」
 そう言って少年――リオレークの意識を自分のほうへ向けながら、座り込んでしまった青年に「今のうちに逃げろ」と合図を送る。
 強引に連れて行かれそうになって怖いと感じた相手だけれど、リオレークと合流した今はもう、そう思わない。
 リオレークがいれば私が危険な目に合うことはないし、彼が暴走しないように止めることのほうが大事だからだ。彼は真面目な性格のためか、これまでも周りが見えなくなることがあり、こんなふうに何度かトラブルになっていた。
「すみませんミツバ。俺は聖女を……貴女を守るためにいる騎士なのに、不快な目に合わせてしまった」
 リオレークの意識が青年へ向かわないように、剣を持っていないほうのリオレークの手を両手で包むと、彼の放つ殺気が霧散していくのがわかる。
「ううん。キョロキョロしながら歩いて迷子になったのは私なんだから、謝るのは私のほうだよ。リオレークが迎えに来てくれて本当に良かった。ありがとう」
 お礼を言うと、リオレークは照れたように目尻を染めた。