和平交渉に来たはずが、冷酷皇帝の抱きまくらにされています!?

和平交渉に来たはずが、冷酷皇帝の抱きまくらにされています!?

  • 発売日2023.11.24
  • 価格¥858(税込)

※価格や発売日はストアによって異なります。

なんだ、抱いて寝るだけでは不満か?

冷酷と恐れられる皇帝ルシウスから政略結婚を持ちかけられたアンナリーナ。王女である彼女は母国の独立を守るため彼と交渉をするつもりだったが、憤慨した父王が侍女の姿絵を王女として送ったために事態はややこしくなってしまう。結果、アンナリーナは侍女に、侍女のアンナは王女に扮して二人で帝国へ赴くことに。アンナリーナは入れ替わりを言い出せないまま、横暴なルシウスからアンナを守るために奮闘するが……。「ならば、おまえが俺の相手をしろ」と彼の寝室に連れこまれ、『抱きまくら』として毎夜一緒に寝ることになり――!?

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人物紹介

アンナリーナ

牧歌的な小国で皆に愛され大切に育てられた王女。真っ直ぐな性格で、どんな相手にもはっきり意見を言う。

ルシウス

油断すると寝首をかかれるような大帝国で生き抜いてきたた。基本的に人を信用していないが、なぜかアンナリーナがいると熟睡できる。

試し読み

「この俺に意見するのか?」
「上に立つ者なら、時には寛容さを見せることも必要だと思います」
 売り言葉に買い言葉というわけではないが、アンナリーナはついつい熱くなって思ったことを口にしてしまっていた。
 恐怖で人心を掌握することが正しいとは思えない。
 ルシウスに刺客が迫ったことは失態かもしれないが、物事をすべて完璧にこなせる人などいるわけがない。こんなやり方を続けていれば、いつの日かしっぺ返しを喰らうことになっても誰も助けてはくれないだろう。
 ──お父さまだって、臣下はとても大事にしていたわ……。
 それだけでなく、父はすべての王国民を愛していた。
 そういう気持ちは伝わるものだから、人々も王国を守りたい気持ちが強いのだ。
 屈託のない笑顔で笑い合う人々の姿が懐かしい。今さらながら、アンナリーナは自分がとても恵まれた環境で育ったことを思い知らされていた。
「……フェリシア王国の侍女は、ずいぶん口が達者なようだ」
 ルシウスはしばし黙り込んでいたが、数秒ほどして小さく呟く。
 印象的な紫色の瞳で見つめられ、アンナリーナは一瞬吸い込まれそうな感覚になったが、すぐさまハッと我に返った。
 ──そ、そうだった。今の私は侍女だったわ……っ!
 すっかり忘れていた。偉そうに意見している場合ではなかった。
 ルシウスはゆっくり立ち上がると、執務机を離れてこちらに近づいてくる。
 アンナリーナは内心あたふたしていたが、まさかここで逃げ出すわけにはいかない。
 なんて命知らずな真似をしたのだろう。
 きっと、怒らせたに違いない。いくらなんでも、今のは侍女としてあり得ない振るまいだった。
 やがて、ルシウスの足音がすぐ傍で止まる。
 鋭い視線を感じて、アンナリーナはおそるおそる顔を上げた。
 今度こそ、腰元の剣で一刀両断されるかもしれない。呆気なく散っていく自分の最期が頭の隅に浮かんだ。
 ところが──、
「──んぅ……っ!?」
 次の瞬間、執務室にくぐもった呻き声が響く。
 アンナリーナは大きく目を見開き、身を強ばらせた。
 ルシウスの顔が間近まで迫った直後、むちゅうぅ……と、柔らかく生ぬるい感触のもので唇を塞がれていたのだ。
「う、うぐ…っ、んぅ、ん──…ッ」
 ややあって、唇の隙間から差し込まれた彼の舌が自分の舌に絡みついてきて、アンナリーナはそこでようやく状況を理解する。
 けれど、慌てて顔を背けようとしても、顎を掴まれてさらに深く口づけられてしまう。
 執務室には苦しげな喘ぎ声と舌が絡み合ったときの淫らな音が響き続ける。
 混乱するアンナリーナをよそに、ルシウスは瞬き一つせず、射貫くような目でこちらを見つめていた。
「……減らない口も、さすがに大人しくなったようだな。まったく、おまえのようなやつははじめてだ」
「っは、あ…、……っ」
 僅かに唇が離れると、ルシウスが呆れたように息をつく。
 しかし、アンナリーナは顎を掴まれていたせいで、唇に彼の息がかかって変な声が出てしまう。
 頭の中が真っ白だ。
 こんなふうにはじめての口づけが奪われるなんて考えてもみなかった。
「だが、なかなか興味深い意見だ。アンナ、そこまで言うなら、寛容さとやらを見せてやろうではないか。そうすれば、おまえも自分の力を存分に発揮できるのだろう?」
「な…んの話、ですか?」
「おまえは、俺の抱きまくらとしてその身を捧げるのだ。今後は俺の疲れを癒やすために精進するといい」
「……抱き…まくら、として……」
 ルシウスの命令にアンナリーナはごくりと唾を呑む。
 だが、考えを巡らせるも、肝心の『抱きまくら』がなんなのかが今一つピンと来ない。
 何か無茶な要求をされているような気はするのだが、明確に理解できないために曖昧な反応になっていた。
「あの、陛下……。抱きまくらとは、なんでしょうか……?」
「おまえは何を惚けたことを言っているのだ。昨日教えてやったばかりだろうが。遠い異国では、暑い夜に石や籠を抱いて涼みながら寝る風習があると……。おまえ自身、朝まで俺の抱きまくらとして過ごしていたではないか」
「あ…、あぁ、あれのこと……」
「抱いて眠るまくらなのだから、それ以外にないだろうが」
「……なる…ほど?」
 当然の如く言われて、アンナリーナは強引に納得させられてしまう。
 けれど、一拍置いて昨日のことが頭の中に思い浮かんだ途端、みるみる青ざめていく。
 ──え、嘘…、これからずっとあんなことをしなくてはいけないの……ッ!?
 てっきりあれは一日だけのことだと思っていた。
 これから毎日だなんて、そんなの冗談ではなかった。
 昨日は抱きつかれただけで終わったが、今後もずっとそれで済むとは限らない。
 今だって、いとも容易く唇を奪われたのだ。ルシウスがその気になれば、女一人を組み伏せることなど造作もないはずだ。
「……くく……」
「……ッ」
 ルシウスを見上げると、彼は人形のように整った顔を邪悪に歪ませていた。
 なんて恐ろしい表情だ。
 爽やかさなど欠片も感じられないルシウスの微笑に、アンナリーナはぞっとして、ただただ顔を引きつらせるばかりだった。